今回はBlack Moon Tattoo StudioのTomasさんとCHISAKIさんに伺った、「幾何学が導く美の哲学」についてのお話を綴っていきます。
CHISAKIさん:
基本的には、トライバルとジオメトリックをやっています。
トライバルにも種類が色々ありますけど、中でも好きなのが「マオリ」とか「サモアン」とか「ポリネシアン」が好きですね。
Tomasさん:
お店の名前を決める際、最初は「Black sun」が候補に挙がっていました。「日出る国」である日本でお店を開くので、「Black sun」という名前はピッタリだと思っていました。
試しにネットで「Black sun」と検索してみたらナチス関連のものが多く出てきてしまったんです。
なので「Black sun」ではなく「Black Moon」にしました。
CHISAKIさん:
若い頃、海外とかの雑誌で見たトライバルが何よりもかっこよくて。
その後、海外に行って色々見てより理解を深めたりとかもできたかなと思います。現地の人ではないですけど、やっぱりトライバルは好きですね。
Tomasさん:
祖父母もタトゥーがたくさん入っていたので、自分がタトゥーを入れることに疑問を抱いたことはなかったです。幼い頃からタトゥーが欲しくてとても普通なことだと思っていました。
タトゥーは最初、個人的なものとして始めました。客としてタトゥーを彫ってもらっていて、まさか自分が彫り師になるとは思っていなかったですね。自分のために入れたものが、自然と他の人に広まっていったんです。
一度魅せられたらもう戻れない。それがタトゥーの魅了ですよね。
CHISAKIさん:
(日本のスタジオとは違って)海外のスタジオだとセットアップしてくれるアシスタントの人がいますけど、日本だとそういうこともあまりないし、自分でお店をやってたりするので、色々なものを自分で発注しなくてはいけないので、事務的なことは増えましたよね。
Tomasさん:
日本のタトゥー業界はあまり変化してきていないと思います。タトゥーの人口は増えましたけど、本質的にはあまり変わっていないと思います。
世界と比べて日本が特徴的なのは、タトゥーの業界の最大の変革期が2000年代に訪れたことです。リアリティーショーのように日本のメディアでタトゥーが取り上げられるようになり、人々のそれまでのタトゥーへの価値観を大きく変えました。
日本では、タトゥーは依然として非常に真剣で、覚悟が必要なものとして捉えられています。どんなに小さなタトゥーでもその考えが根底にあって、それが私は好きですね。ヨーロッパだとタトゥーは普通なものとして受け入れられすぎていて暇つぶしにタトゥーを入れにくる人もいますから。
CHISAKIさん:
日本だとトライバルタトゥーを行っているアーティストが少ないので、どこのお店行っても重宝されますね。そんなに人と被らないので、どこのお店行っても「来な来な」と言ってもらえます。
Tomasさん:
タトゥーを通じて気づいたことはあっても、自分が何かを発明したと思ったことはないです。
そもそも純粋なオリジナルのアイデアは、この世には存在しないですからね。
その点、タトゥーは自由そのものです。
オリジナリティーを気にせず、好きなようにしていいですし、自分のアイデアが他の人に真似されたり、影響を与えたりするのは嬉しいですね。錯覚や幾何学的スタイルのタトゥーも同じで、だからこそ私は好きですね。
Tomasさん:
残念ながらタトゥーは時間の経過とともに、とてもぼやけてしまいます。デザインの問題ではなく年齢や肌の張りが影響しています。それを理解している人が優秀なタトゥーアーティストだと思います。
Tomasさん:
自分のタトゥーは全部大好きですが、日によってお気に入りは変わります。
例えば、背中の和彫りですが、銭湯で和彫りが入っている年配の日本人男性を見ると「自分にもあるよ」と思ったり、あとは首にかっこいいタトゥーをしている人をテレビで見ると「自分も首にある!このタトゥー好きだな」と思ったりします。
CHISAKIさん:
難しいですね。単純な質問だけど。シドニーで働いていたお店が「インナービジョン」という名前だったんですけど、まさにそんな感じで、自分の中にあるものを表現して入れていくものだと思っています。
Tomasさん:
タトゥーは入れてから2〜3年経つと存在が薄れて、あまり意識しなくなりますよね。それで数年、数十年経ってからふと鏡で見たときに「これいいじゃん」ってまた思い出すようになる。それがタトゥーの一番いいところですね。
私には今は亡き彫り師たちから入れてもらったタトゥーがたくさんあります。亡くなった人たちからの「ゴーストタトゥー」が私のお気に入りですね。デザインのかっこよさとは別に、亡くなった人が入れてくれたタトゥーという部分に、特別な価値を感じます。だからこそ私のお気に入りですし、年を重ねるごとに「ゴーストタトゥー」が増えていくので、思い入れが強くなりますね。
Tomasさん:
タトゥーは一種の言語です。タトゥーは自分を映す鏡であり、所有者のことをたくさん教えてくれます。タトゥーを入れる時、どれくらい自分が強い信念を持ったのか、そしてどのように導かれて人生を歩んでいったのか、タトゥーとは人生そのものです。
人生の中で何をどれくらい成し遂げたのか、入れたタトゥーを愛することで自分自身や人生を受け入れて、愛することができると思うんですよね。
Tomasさん:
ここで話すべきではないこと、話せないことたくさんです。施術中にお客さんに殺されそうになったり、命が危なかったお客さんもいたりしました。
私がタトゥーを愛する理由の一つがアドレナリンだと気づくのに、かなり時間がかかりました。彫り師を始めたばかりの頃は、もっと冷静に施術ができるようになる日が待ち遠しいと思っていましたが、そんな日は来なかったですね。タトゥーマシンを手に取るたびに「失敗するかもしれない」と思うんです。そう思うのが嫌だったのですが、何年もかかってようやく実はそれが好きだったんだと気づきました。
CHISAKIさん:
色々なマシンも出てきて技術的には彫りやすく、作りやすくなっていっていて、今では誰でも彫れるようになってきたなとは思うんですよね。昔と比べたら。
でも誰でも彫れるからって、誰でもいいものが彫れるとも限らないし、そのアーティストごとの作りたいものがあると思います。
Tomasさん:
新しい世代は何かを見つけるたびに自分たちがそれを発明したと思いがちです。新たにタトゥーに魅せられた人がタトゥー業界に参入し、新しいアーティストが生まれる。なのでタトゥーはこれからも変わらずに続いていくと思いますよ。
CHISAKIさん:
その辺は全然わからないですけど、AIでデザインを作ってってなっていくかもしれないし、AIで作ったデザインでこれ彫ってみたいになるかもしれないし。
Tomasさん:
私は流れに身を任せます。
Tomasさん:
タトゥーは理屈で語るものじゃないですし、かなり繊細なものなので分析もしないです。
タトゥーは試行錯誤の繰り返しです。うまくいくまでひたすら続けるんです。私にとってなぜある形が他の形よりよく見えるのか、まだはっきり分かっていないこともあります。
タトゥーは我々彫り師が主役ではありません。彫り師を初めて最初の20年は「自分が主役になりたい」と思っていました。でもだんだん気づいたんです。タトゥーはその人自身に関するもので、彼らの物語が大切で主役だということにね。
CHISAKIさん:
なかなかみんなに受け入れられるようなジャンルをやっているお店ではないので、でも興味を持ってみてもらえれば、そのかっこよさもわかってもらえるかなと思います。
Tomasさん:
熊谷に来てください。スタジオは順調に運営していますし、以前にも増してタトゥーへの情熱は高まっています。タトゥーは大好きです。
タトゥーを入れたい、またはタトゥーアーティストならぜひ遊びに来てください。一緒にタトゥー業界を盛り上げましょう。
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